もしも傘が喋ったら、忘れられることも少なくなるだろうか。
そんな話をしたのは、雨が降ったのに傘を忘れて出て来た夜。
聖堂で雨宿りをしてると、書庫で本を漁ってたらしいラクチェと出会った。
物語が好きな彼女(そういえば、こんな話は前にもしたことがあったっけ)に聖堂の書庫についてと、それから本について話をしてた中で、そう、たぶん傘と忘れ物の話になって、喋る傘があったら、ってことになったんだ。
聖堂じゃ、参拝客さんが忘れてった傘を貸し出してもらえる。
さされるために作られた傘も、そうしてほんとの目的のために使ってもらえるのは本懐だろう。でもやっぱり持ち主さんに忘れてかれちゃうのは寂しいんじゃないか、ってちょっと思うから、もしも傘が言葉を喋ったら……忘れられそうになったら主張できる口がついてれば、もしかして傘の忘れ物も減るんじゃないかな、って。
よく考えてみれば、口がついてたらきっと、そんな機会じゃなくても傘は喋るだろう。
開発してみたら、なんてラクチェには安易にアドバイスしたけど、実際にできたら、うーん、ちょっと辟易しちゃうかな、なんてね。
ラクチェは実際には不精なところがあるけど、見た目はとても真面目そうに見える。
俺が思っているその性質を伝えたら、何か言いたそうな顔をしていた。
ふふ、でも文句は言えないでしょ?正解で間違いないんだからさ。
■山頂の大聖堂にて■
(ラクチェ)

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