黒の海流を抜けた先、絶海の孤島、その島には『嘆き』の名がついている。
商談で都に来たっていうシスコのお兄さんが、俺の仕事がひと段落するのを待って声をかけてくれた。(というより、声じゃなくて肩を叩くとこからだったので、やたらびっくりしちゃった気がする。今度はぜひ声をかけるとこからお願いしたいな…!)
相変わらず顔色は悪そうだったけど、見えないだけで元気らしい。
それはともかく、都の人の多さと乾燥したのには落ち着けてないようだったから、ちょうど近くにあった、俺の知ってる静かな茶店で休むことにした。
商談は相手の粘りで停滞してたようなんだけど、口ぶりと表情から、勝算はありそうに見えたな。
早々と決着がついて、落ち着けることを祈っておこう。
それから、今街で、冒険者ギルドに出してるという依頼の話を聴く。
孤島への冒険。
噂話の真偽の確認と、そこにある財宝を持ち帰るので賞金が出るって。
噂話はたくさんあるみたいだけど、俺が気になるのはこの話だろうって、ひとつ教えてくれたのは、不幸と死を呼ぶ泣き声をあげる妖精、バンシーについての伝えだ。
孤島で目撃されたっていうそのバンシーは、泣くんじゃなくて、唄うらしい。
渡ってきた人から教わったのかどうか、リュートを手にしてそれを弾きながら。
その旋律とリュートを欲しがっている好事家がいるんだって。
俺もその話は気になるし、それを持って帰ったら、その人も喜ぶだろうか。
……孤島じゃなければ、それに、俺が以前に2度そこへ渡ってなければ、そしてそのときのことをすっかり忘れてでもいたら、返事を待たせずに行くことにしたかも知れないんだけどな。
船は11月1日まで出てるそうだ。
それまでに、行くかどうかを決めること。
ついでに、珈琲とお菓子を奢ってもらったので、またいずれお礼でもすること。
■城塞の都・都のバザールにて■
(シスコ)

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