突き付けられた刃をはね除ける選択をしなかったのは、彼女の声にどこか、申し訳なさそうな気持ちを感じ取ったからだろうか。
フェフェと名乗ったその砂民の女の子は、そう、まるで街にいるときに、パン屋の女の子が声をかけてきてくれるみたいな、そんな普通の声音をしていた。ただ違ったのは、俺の首筋に刃物の感触があったこと。
殺気はなかった。
その感じと彼女自身の言葉の通り、マントを留めるのに使ってた細工の留め金を取り出したら、刃物も彼女も離れていった。それに、こうなるに至った経緯も教えてくれたんだ。
どうやら彼女の住む集落は、毎年このぐらいの時期になると数カ月、地下水が枯渇してしまうらしい。
集落の中で水を確保する術が失われてしまうこの季節には、村人はこうして「稼ぐ」のが常なんだそうだ。
地下水を引いてる近くの湖に原因があると考えて、集落の戦士たちが偵察に行ったことはあるものの、今まで帰ってきた人はいないんだって。それはその湖に何か、危険なことがあるからなのか、それとも別に理由があるのか、帰る人がいないから、正確なところはわからない。そのうち、様子を見に行く人も減って、最近は誰も足を運んでいない。
これから何年も、フェフェやその集落の人達がこうして稼がないといけないのは辛い。
だから、俺もその湖へ様子を見にいってみることにした。
だって、今度は穏やかに月を見上げながら話もしたいし、それに、春には街の桜を見る案内もするって、そう約束したからね!
その桜をいっそう綺麗にするためにもっ。
……ただし、無茶はやらないってのも約束。
■太陽と月の砂漠にて■
(フェフェ)

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