特別な名前、特別な音、ほかにない特別な宝物というのは、この上なく嬉しい響きを持っている。
それは旅立ちの前、ちょうど聖堂に寄ったあと、雨が降って帰り辛くなった、なんてハプニングも、すっかり忘れさせてくれてしまうくらい。
とは言え、俺も彼女もそのハプニングに巻き込まれた仲間だったから、それを忘れてしまっては、今夜の出会いは語れないんだけどね。
フルネームをラズワルド・ヴェガ(それぞれ空、流れ星、という意味を持つ素敵な音だ)というその冒険者の女の子は、いつもラズという愛称を名乗ってそう呼ばれ、呼ぶ相手にも、彼女独特の呼び名をつけているらしい。
たまたま聖堂で顔を合わせた俺にも、ジュジュ、という心地良い響きの名前をくれた。
俺は自分の名前もそれなりに気に入っているし、名前を呼ばれるのも好き。
でもそれが、その人だけが思う俺を示す音だったら、それはもっと嬉しいって感じる。
特別って良いよね。
だから俺も彼女のことを、ラズという愛称でもなく、ラズワルド・ヴェガという本名でもなく、ラジィ、という俺だけの呼び名で呼ぶことにした。
ちょっとおてんばで、でも神様への愛の深いラジィ。
次に会えるときもきっと元気で、ジュジュ、で呼んでくれるかな。
■山頂の大聖堂にて■
(ラズ)

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