そういえば、海を見たのはちょっとだけ久し振りのような気がした。
海よりかもずいぶん久し振りだったように感じるジークムントさんだけど、実は、俺が酒場なんかで唄うのを時折耳にしてくれてたらしい。それから、名前も聴くようになったって。
ちょっとは詩人として認められてきたってことかな、実感は全然ないんだけどね…!
そうそう、最近一山当てて羽振りが良いって言うから、どんな冒険をしたのかと思ったら、財布を拾ったのを自分のもんにしちゃったみたい。しかもその財布、後から来たジークムントさんの友達、金髪のシスター、エリーカの落としたもんだったみたいで、一悶着ありそうだったんだけど…、
何とか明日、神様経由でおまけもつけて返してもらうってことで決着がついた。
広場近くの雑貨屋さんの、数量限定大人気テディベア、無事に手に入れられることを祈っておこう。
それにしても、いきなりジークムントさんの背中に蹴りを入れたことといい、その後も殴ったり蹴ったりしてたことといい、最初こそエリーカがジークムントさんに恨みを持ってるのかと思ったし、実際にジークムントさんにも心当たりがありそうなんだけど、今夜エリーカと話して何となくわかった。
殴ったり蹴ったりも、彼女のコミュニケーションなんだろう。
それも、かなりの親愛の情が篭ってるように見えた。
素直だって思わず言ったら、何が、って怒ってたけど、怒ってばっかりで一見あんまり素直に見えない子が、かえってすげぇ素直に見えるのは、俺だけだろうか。
エリーカも俺を知っててくれたみたいで、サインなんてものを頼まれたから、聖書の隅に名前を書いた。それから、一緒に歌を唄うって約束もしたから、実現を楽しみにしておく。
そうそう、ジークムントさんが王様のレストランに連れてってくれるって約束もね。
■潮風の港街にて■
(ジークムント、エリーカ)
ジークムントさんとは、ずいぶん久し振り。
以前はそう、エイザーとも一緒に聖堂で。
俺が止めて欲しいって言ったのに、彼が剣を抜いてエイザーがそれに応じようとしたから、しばらく口きかないって、そう言ったんだ。
その時は戦争の後だったし、俺は聖堂部隊で副隊長をつとめたんだ。
剣を抜いて欲しくないのは心からの気持ちだった。
エイザーにも言ったけど、その時はきっと俺も熱くなってた、もう怒ってはいない。
それに、2人のことは好きだから、これからだって今までとおんなじようにお喋りしたり、冒険に出たり、歌を聴いてもらったりしたいと思ってる。
でも、だからこそきっと、剣を抜いたことを許してもいない。

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