緩やかな丘の上にある見晴台は、最近の気に入りの場所のひとつ。
普通にしてても街が一望できるのはもちろん、ちょっと危なくはあるけど、手摺に座ったり、その上に立ち上がったりすると、もっと遠くまで見える気がして何となく、嬉しくなるんだ。
日も落ちかけた夕方から夜にかけて、今夜はゾーイと一緒にその景色を楽しむことができた。
手摺に立ち上がって街を見下ろす光景を、人間に選択を迫る魔王になぞらえたゾーイは、はじめに俺の方が魔王か、って言ったけど…、黒い衣を風にはためかせながら立ってるゾーイと、質素な格好で竪琴を持ってる俺と、どっちがそれらしいかって言ったら、ねえ、言わずもがなだと思うよ。
彼いわく、それじゃ普通過ぎてつまらない、だそうだけどね…!
ただ、ほんとは魔王というよりも、飄々としたカラスさん、という印象が俺には強かった。いずれ語り紡ぐと約束したゾーイについての歌は、なので、もしかしたら魔王の歌じゃなくカラスさんの歌になるかも知れない。
なんて、できてみないとわからないけど。
今夜のところはとりあえず、ゾーイがお喋りという肴に満足してくれてれば、それでよしとしておこうか。
■マルチルーム・見晴台にて■
(ゾーイ)

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