元気な踊り娘さんだなあ、と思ってた、こっちまで元気にしてくれるような踊りだ、って。
以前いつか、たまたまこの酒場で舞台を見たことがあったセレニア、ってその女の子と、今日はたまたまタイミングが合って話すことができたんだけど…、元気って褒め言葉はいつも言われているから、彼女自身はたまにはもっと違う褒め言葉が欲しい、と思ってるようだった。
見ている誰かまで元気にしてしまえる明るさ、それに笑顔をして元気というのは、彼女にぴったりの褒め言葉だと俺は思う。きっと今までそう褒めてきた人達も、そんな意味を込めて言っているのだろう。
……ただ、その辺はやっぱり複雑らしい、女の子としては。
やがて休憩を終えて舞台を再開するセレニアに、だから元気な曲のほかにも、俺のわりと得意なゆったりめの曲を贈ることにする。その結果、彼女が元気という以外の褒め言葉をもらえたかどうかは、ふふ、推して知るべし。
寒い中でおそろいのホットココアを飲んで一緒にあったまった仲だからか、息はぴったり合ったよ、ってことだけ記しておこうかな。
そうそう、今夜の舞台の観客の中にはセレニアの知り合いもいた。
ラハルというお兄さん(この街に来て2月ほどらしい。物腰穏やかで、大人って感じのお兄さんだ)で、どうやら近く、セレニアの護衛をするんだって。
行き先は砂漠の向こう、城塞の都。
都の踊りを見たりして楽しんでくるってことだったから、俺が向こうでの生活で覚えた、踊り娘さん達がよく舞台にしてる場所や、それぞれの人達の簡単な特徴なんかを、覚えてる限りの見取り図と一緒に書き込んで渡す。
あのラハルのお兄さんが一緒にいるなら、道中はきっと心配ないだろう。
後は、彼女が心から楽しんで来るのを願うばかり。
俺ももうひと月ほど、聖夜のために増える仕事をできるだけ受けたら向こうに帰って、年の終わりはのんびりするかな。
■冒険者達の酒場にて■
(セレニア、ラハル、(ナイト))
