繕い物は得意だけど、その工程のいちばん最初、針の穴に糸を通すのが、俺はちょっと苦手だ。
片眼がきかなくなってから、たぶん、もう2年以上は経つ。
そうなって苦労したのは、遠近感が判り辛くなったことと、視野が狭くなったこと。
針ぐらい細いものに顔を近付けると、焦点を合わせるのに集中力がいるもんで、まだまだ慣れない。
いつも通ると声をかけてくれる、近くのお針子のお姉さんの店にたまたま寄ったら、出かける間の留守番と、その間の時間潰しにって、ちょっと繕い物を頼まれる。
…とはいえ、お姉さんがきっちり店を閉めて扉には鍵をかけていったので、俺は外で待つことになった。
これじゃ、留守番ってよりか番犬だよね…!
それで糸通しに苦労してたら、たまたま起きなりらしいシンクさんが通りかかったので、ちょっとお願いして針に糸だけ通してもらうことにしたんだ。
シンクさんは、S-1を観戦しに城塞に来てたんだって。
大会にも決着がついて、人通りもその時よりは落ち着いて、だんだんと日常に返りつつある城塞の都からは、なのでもうちょっとしたら戻るらしい。
一度で針穴に糸を通したシンクさんは、きっと普通から考えても、かなり器用な方だと思う。
縫うのは苦手みたいだけど、きっと練習したら、細かい縫い目を作れるようになるんじゃないかな?
そんな話や大会の話をして、それから、ちょっと珍しいけど良い香りの煙草を教えてもらった。
街への土産を考える時は、参考にしてみようかな。
■城塞の都・都のバザールにて■
(シンク)
