呪い師のひとりは俺を金糸雀と表し、もうひとりはただ小鳥さん、と表した。
ただし前者、スライマーンのお兄さんは今、何か大事なものを手に入れた代りにその力を、俺を城塞の都で助けてくれたときよりか、幾分も弱めてしまったらしい。それこそ後者、スライマーンのお兄さんのほかのもうひとりの呪い師、オーリエンダが例えたように、不死鳥が細って小鳥になったみたく。
思いつきで弟子入りを志願したお兄さんは、今夜はほかの方法を探すことに決めたそうだけど、オーリエンダは力を取り戻すための別の方法も知ってるって言ってたし、きっと望みはあるんだろうと思えた。
力はなくしても相変わらず、俺のことを心配してくれてたみたい。彼なら、手に入れたっていう大事な宝物と共に、その優しい性質できっと、前向きにやっていけるような気がする。
……そのお兄さんが、オーリエンダがいなくなったことに関わってたのには、さすがにびっくりしたけど。
いや、それよりか、森を歩いてる彼女を見かけて、前と変わりない声で喋るもんだから、スライマーンのお兄さんがちゃんと教えてくれてなかったら、まだそれが夢か幻だと思っていたかも知れない。
黄泉返ったそうだ、と、スライマーンのお兄さんはそう言った。
それでも驚いたのが抜けなくて、彼女が喋る間はずうっと、その言葉尻が夜に消えていきやしないかと耳を傍だてていたし、俺にさわろうとする指も、俺がさわろうとした髪もすり抜けるんじゃないかと疑ってもいたけど、そのどれもが杞憂になった。
びっくりしすぎて、頭ではよく考えられていない。
本当は、夢でも幻でも良かったのかも知れない。
ただ、彼女が間違いなく温かかったから、きっと他の考えを上塗りするぐらい、俺は嬉しく思っていたんだろうと思う。
いつまでも覚めなかったから、夢じゃないとわかった。
噛みついたら傷ができたから、彼女に血が流れているとわかった。
血を見て安心したのは初めてだ。
オーリエンダは間違いなくそこにいた。
……痛くしてごめん、なんて、謝ってなんかやんないんだから。
■エルフの森にて■
(オーリエンダ、スライマーン)
